MCDチーム
チーム概要
MCDチームリーダー
鈴木 基寛
MCDチームでは、円偏光放射光による分光法であるX線磁気円二色性 (XMCD: X-ray magnetic circular dichroism) を用いた測定手法の開発、および磁性研究の支援を行っています。BL39XUとBL25SUの2本のビームラインにおいて、それぞれ硬X線領域と軟X線領域のXMCD測定環境を提供しています。BL39XUでは、強磁場、低温、高圧という複合極端条件下でのXMCD法の開発を行っています。XMCDに加えてXAFSやXESといった分光法をも駆使し、高圧化での相転移や物性発現機構の解明を目指しています。また、硬X線ナノビームによるXMCD法の開発を行っており、100 nm の空間分解能での元素選択的な磁気イメージングや、微小磁気デバイス試料の磁化測定を実現しています。BL25SUでは、分光物性IIグループと協同で軟X線領域のMCD測定の高度化に取り組んでいます。汎用的な電磁石MCD装置に加え、最大 40 T のパルス磁場MCD測定や、軟X線ナノビームによる走査顕微鏡の開発を行っています。硬X線と軟X線MCDの相補的な利活用を基盤とし、電場や高周波等の外場印加条件下での測定、極端測定条件のさらなる拡大、ナノビーム利用の先端化を進めていきます。
研究・開発成果
極端条件下でのXMCD
強磁場、低温、高圧、あるいはそれらを複合させた同時極端条件下でのXMCD分光測定の開発を行っています。強磁場発生のための超伝導マグネット、高圧発生のためのダイヤモンド・アンビルセル (DAC) 、集光ミラー等を用いた実験装置を構築し、XMCD測定に最適化しました [1]。多結晶ナノダイヤモンドをDACに採用することで、グリッチのない高品質なX線吸収スペクトルを高圧下でも取得可能としました [2]。さらには、パルス磁場XMCD測定の開発にも成功しました [3, 4]。
これらの装置開発によって得られた主な研究成果として、以下が挙げられます。
- 金のナノ粒子およびバルク金における磁性の観測 [5, 6]
- 超高圧下でのCoの磁気および構造相転移の観測 [7]
- パルス超強磁場下でのEu化合物の価数転移 [3, 8]
- YbNi3Ga9の量子相転移に関する価数揺動状態の発見 [9]
ナノビームXMCD
光源・光学系部門の協力のもと、集光X線ビーム(ナノビーム)を用いたXMCDおよびXAFS測定の開発を行っています。BL39XU ではKBタイプの反射ミラーを導入することで、100 nm 径の円偏光硬X線ビームの利用を可能としました [10, 11]。可変磁場下での走査型磁気イメージングや、局所領域のXMCD、微小デバイス試料の元素選択的磁化測定が行われています。集光ビームおよび試料位置の安定化に取り組んでおり、またパルス電場や高周波等の外場印加と同期させた時分割・顕微測定への拡張のための高度化を行っています。BL25SUでは、フレネルゾーンプレートを用いた軟X線走査顕微鏡の開発 [12] を行っており、ユーザー利用への提供を開始しました。
これらの装置開発によって得られた主な研究成果として、以下が挙げられます。
- ビットパターン媒体の単一磁気ドットの磁気特性評価 [10]
- 単粒子触媒の化学的活性部位の可視化 [13]
- 相変化メモリデバイスのスイッチング部位の顕微観察 [14]
- N. Kawamura, N. Ishimatsu, and H. Maruyama, Journal of Synchrotron Radiation 16, 730 (2009).
- N. Ishimatsu, K. Matsumoto, H. Maruyama, N. Kawamura, M. Mizumaki, H. Sumiya, and T. Irifune, Journal of Synchrotron Radiation 19, 768 (2012).
- Y. H. Matsuda, Z. W. Ouyang, H. Nojiri, T. Inami, K. Ohwada, M. Suzuki, N. Kawamura, A. Mitsuda, and H. Wada, Physical Review Letters 103, 046402 (2009).
- T. Nakamura, Y. Narumi, T. Hirono, M. Hayashi, K. Kodama, M. Tsunoda, S. Isogami, H. Takahashi, T. Kinoshita, K. Kindo, and H. Nojiri, Applied Physics Express 4, 066602 (2011).
- Y. Yamamoto, T. Miura, M. Suzuki, N. Kawamura, H. Miyagawa, T. Nakamura, K. Kobayashi, T. Teranishi, and H. Hori, Phys. Rev. Lett. 93, 116801 (2004).
- M. Suzuki, N. Kawamura, H. Miyagawa, J. S. Garitaonandia, Y. Yamamoto, and H. Hori, Phys. Rev. Lett. 108, 47201 (2012).
- N. Ishimatsu, N. Kawamura, H. Maruyama, M. Mizumaki, T. Matsuoka, H. Yumoto, H. Ohashi, and M. Suzuki, Phys. Rev. B 83, 180409 (2011).
- T. Nakamura, T. Hirono, T. Kinoshita, Y. Narumi, M. Hayashi, H. Nojiri, A. Mitsuda, H. Wada, K. Kodama, K. Kindo, and A. Kotani, Journal of the Physical Society of Japan 81, 103705 (2012).
- K. Matsubayashi, T. Hirayama, T. Yamashita, S. Ohara, N. Kawamura, M. Mizumaki, N. Ishimatsu, S. Watanabe, K. Kitagawa, and Y. Uwatoko, Phys. Rev. Lett. 114, 086401 EP (2015).
- M. Suzuki, N. Kawamura, M. Mizumaki, Y. Terada, T. Uruga, A. Fujiwara, H. Yamazaki, H. Yumoto, T. Koyama, Y. Senba, T. Takeuchi, H. Ohashi, N. Nariyama, K. Takeshita, H. Kimura, T. Matsushita, Y. Furukawa, T. Ohata, Y. Kondo, J. Ariake, J. Richter, P. Fons, O. Sekizawa, N. Ishiguro, M. Tada, S. Goto, M. Yamamoto, M. Takata, and T. Ishikawa, Journal of Physics: Conference Series 430, 012017 (2013).
- 鈴木基寛, 寺田靖子, 大橋治彦 他, SPring-8利用者情報 16, 201 (2011).
- 中村哲也, 小谷佳範, 高田昌樹, 仙波泰徳, 大橋治彦, 後藤俊治, SPring-8利用者情報 19, 102 (2014).
- N. Ishiguro, T. Uruga, O. Sekizawa, T. Tsuji, M. Suzuki, N. Kawamura, M. Mizumaki, K. Nitta, T. Yokoyama, and M. Tada, ChemPhysChem 15, 1563 (2014).
- J. H. Richter, A. V. Kolobov, P. Fons, X. Wang, K. V. Mitrofanov, J. Tominaga, H. Osawa, and M. Suzuki, MRS Proc. 1563, mrss13 (2013).
プレスリリース
- 磁気秩序相の背後に潜む電荷の不安定性による新奇な量子相転移の発見, 東京大学, 名古屋工業大学, JASRI, 広島大学, 九州工業大学, 高知大学, 2015年2月27日.
- 高い磁気転移温度を持つハーフメタル新材料の合成に成功 -超高密度磁気メモリーなどスピントロニクスデバイスへ応用可能な新材料-, 京都大学, JASRI, JST, 2014年5月23日.
- 放射光でキラル物質の3次元透視を実現 -機能を左右する物質の利き手の違いをレントゲン的に識別-, 理化学研究所, 東京大学大学院, 青山学院大学, JASRI, 2013年6月27日.
- 性質の異なる磁性体の接合界面に在る “傾くスピン” の可視化に成功-磁気デバイスの大容量化・小型化を加速-, 大阪大学, JASRI, 2012年8月7日.
- 磁界制御による新しいスピン素子の機能実証に成功 ‐レアメタルフリー材料で記録と演算の2つの機能を兼ね備えた磁気デバイスに道‐, 大阪大学, JASRI, 東北大学, 2012年7月2日.
- 金 (Au) における隠れた磁性の存在が明らか に-ナノ粒子の磁気的性質の解明へ大きな手がかり-, JASRI, 2012年1月23日.
- 温めると縮む新材料を発見 - 既存材料の3倍収縮、精密機器の位置決めに威力 -, 東京工業大学, 京都大学, JASRI, JAEA, 2011年6月15日.
- 世界で初めて超強力磁場中の軟X線分光実験を実現 - レアアースを低減した高性能磁石開発を加速 -, JASRI, 東北大学, 東京大学物性研, 2011年5月30日.
- コバルトは超高圧の下でも磁性を失わないことを発見 − 同じ強磁性体元素の鉄とは異なる結果で物質科学の重要な知見を提供 −, 広島大学、JASRI, 2011年5月11日.
- 世界で初めて酸化物人工格子の界面中に潜む微弱なチタンの磁性を検出-今後のデバイス素材開発に大いに貢献する可能性-, JASRI, 2010年9月21日.
- 星から生まれる次世代磁気デバイス - ナノテクと惑星科学の融合した未来志向のものづくり -, JASRI, 広島大学, KEK, 東京大学. 2009年12月16日.
- 超強磁場X線分光実験の世界記録を抜本的に更新, 東北大学金属材料研究所, 東京大学物性研究所, 日本原子力研究開発機構, JASRI, 九州大学, 2009年7月28日.
- 金ナノ微粒子の強磁性を世界で初めて確認-ナノ磁性微粒子材料の設計指針への期待-, 北陸先端科学技術大学院大学, JASRI, 2004年9月9日.
メンバー
- 主幹研究員 鈴木 基寛(チームリーダー)
- 副主席研究員 中村 哲也
- 副主幹研究員 河村 直己
- 副主幹研究員 水牧 仁一朗